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「ヒマだな、折原」
「ああヒマだな住井」
昼休み俺たちは昼食を食い終わり、ボ〜ッとするだけになってしまった。
ふと住井が面白いことを思いついたという表情で言う。
「なあ、賭をしないか?」
「賭?」
「そうだ、校舎のそばに焼き芋屋が来てるのは知ってるよな」
「ああ」
「そこに今から買いにくるのは男か女か当てるってのはどうだ?」
「のった!俺が先に決めていいか?」
「言い出しっぺはこっちだからな、それくらいは譲るぞ」
「じゃあ、男だ」
「女の方が焼き芋好きだと思うんだがなあ、本当にそれでいいのか?」
分かってないな住井。
いくら女が焼き芋好きだといっても校舎のそばなんて他人に目撃されやすい場所、
プライドが邪魔をして買いに来られる訳ないんだよ。
俺は心の中でほくそ笑む。
「かまわん。で、何を賭ける?」
「学食一回おごりでどうだ」
まあ、それくらいが妥当だろう。俺はうなずく。
「じゃあ、確かめに行くぞ」
「おう」
賭の結果を確かめるため、俺たちは外に向かった。
待つこと10分ようやく人影が見えた。
そいつは壁づたいにコソコソと、忍者のごとく焼き芋屋に接近する。
誰にも見られてないように注意してるのだろうが、俺たちはバッチリ見ていた。
「あいつは・・・」
よく知った顔に俺は敗北感をつのらせる。
「俺の勝ちだな、折原」
住井が余裕に満ちた顔をする。
「まだだ・・・買うとは限らんぞ」
そう言ったものの、俺にはそいつが十中八九焼き芋を買うのが分かる。
やっぱり、そいつは人目を気にしながらも焼き芋を買い込んだ。
俺の恨めしげな視線と裏腹にそいつ、七瀬はホクホク顔だ。
「買ったのは七瀬さんだから俺の勝ちだな」
住井は勝利宣言を告げる。
「ぐ・・・」
「じゃあ明日の学食は折原のおごりな」
七瀬が来るとは誤算だった。
それにしても、やっぱり『色気より食い気』って言葉が似合うよな、七瀬は・・・
「お〜い折原、いいかげん教室戻ろうぜ」
教室に帰って開口一番、俺は言った。
「七瀬は男だ」
このまま素直に負けるのは面白くない。だから、俺は悪あがきをすることにしたのだ。
「は?」
住井は訳が分からんという顔をする。
「だから、あいつは男だって言ってるんだ!」
「見たのか?」
「いや・・・けどな、どう見てもあいつは男だろ!」
ここが勝つための正念場だ。俺は声に力を込める。
「俺には女に見えるぞ」
「あんな暴力的な女はいない」
「それはお前にだけだろ。しかも原因は全部お前だ、折原」
やれやれといいたそうに住井は肩をすくめる。
「あいつは電話帳を素手で引き裂けるんだぞ!」
「いい加減、苦しい言い訳はやめろよな・・・」
住井の視線が哀れみを帯びてきた。しかし、ここで引くわけにはいかない。
「本当なんだって、俺を信用しろ」
ふと住井の言葉が無くなる。
「・・・・・・」
「どうした?」
無言で俺の後ろを指さしている。嫌な予感がしてゆっくりと振り向く。
「お〜り〜は〜ら〜、誰が男だって?」
いつの間にか、七瀬が鬼の形相で立っていた。
「や、やあ七瀬、元気か」
「『やあ』じゃないわよ!もう一度言ってみて、誰が『男』で誰が
『電話帳を素手で引き裂ける』って?」
「え〜っとそれは・・・あ、空飛ぶ敏いとう」
「えっ、どこどこ」
「な〜んて言うとでも・・・あれ?折原は?」
俺は短距離のオリンピック選手も真っ青のスタートダッシュで走り出していた。
「そこから出ていったよ」
住井、薄情なヤツめ・・・ごまかすとかしてちょっとは俺の逃亡に手を貸せよな。
俺は七瀬に捕まらないように力の限り走る。
七瀬に捕まれば確実に命を落とすだろう。今の俺は命がけの逃亡者だ。
階段で長森とばったり会う。
「そんなに急いでどうしたの浩平?」
慌ててる俺を見て長森が聞く。
七瀬が近くにいないことを確かめ、俺は手っ取り早くそれまでのいきさつを話す。
「それは浩平が悪いよ・・・」
「なんでだ、俺は人目を気にせず芋を買うヤツは女とは認めんぞ!!」
「・・・・・・」
申し訳なさそうな顔で無言の長森がうつむく。
そうこうしていると、後ろの方から七瀬の怒声が響く。
「こら〜どこだっ!、折原ーっ!」
やばい殺される!生存本能がそう告げる。
「じゃあな長森」
長森にそういって、また駆け出す。
しばらく走ると前から七瀬が走ってくるのが見えた。
どういうルートで走ってきたんだあいつ・・・
手にはホウキを持っている。アレで叩かれると痛そうだ。
俺は身を翻して逃げ出す。
「待ちなさいっ!」
「待てといわれて待つヤツがいるか」
残った力を振り絞り俺は走る。しかし・・・
どこか曲がる場所を間違ったのだろう、目の前は行き止まりだった。
「覚悟しなさい、折原」
肩で息をしながら七瀬が言う。
「ま、待て七瀬。話し合えば分かる」
「問答無用っ!」
七瀬がホウキを振りかぶる。
「俺が悪かった!あやまる・・・すまねーな、芋姉ーちゃん」
メキョ、変な音がしてホウキの柄が頭にめり込むのを感じる。
暗くなる視界の中、俺は思う。
七瀬よ、やっぱりお前は男だ。この打撃は女の力じゃ無理だって・・・
おまけ
「瑞佳〜っ!焼き芋買ってきたよ。一緒に食べよ〜」
「七瀬さん、ありがと〜」
「やっぱ焼き芋は焼きたてよね」
「うん、ホクホクしておいしいよ」
「そうそう、至福のときよね〜」
END
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